平澤茂一教授 略歴
1938年10月2日神戸生まれ.幼少時代を関西で過ごし,中学生の頃,社会科の若手教師に影響を受ける.その社会科教師が早稲田大学文学部出身だったこともあり,早稲田大学入学を目指し,神戸から上京.早稲田大学第一理工学部数学科(卒業研究指導:故・佐藤常三教授),同電気通信学科(卒業論文指導:内山明彦教授)を卒業後,1963年三菱電機(株)入社.「データ伝送方式」,「誤り訂正アルゴリズム」(符号理論,情報理論)の研究や「テレメータテレコントロールシステム」(コンピュータネットワーク)の開発に取り組む.日本国内で緒についたばかりの情報理論と符号理論の研究を始め,日本における情報理論分野の研究領域に多大な貢献をなす.とくに,ディジタル情報の基盤技術の研究に従事し,数々の業績を残した.中でも「ユークリッド復号法」はCDやDATの復号法として実用化され,また「一般化連接符号」の考え方は地上ディジタルテレビ放送に応用されている.
その研究スタイルは,現在の情報化社会の基盤技術に関わる極めて実用的な研究に携わりつつ,情報理論の非常に美しい理論体系を深く愛するものであった.多分に実用化や商用化の目的が要求される企業の中にあり,苦労を重ねつつも情報理論と符号理論の研究を続ける.その時代,三菱電機上司の藤原謙一部長に「連接符号は実用化が期待されている技術である」という説得がようやく認められ,連接符号の研究を始める.当時,まだその重要性が広くは認められていなかった連接符号の技術は,後に深宇宙通信に,最近では小型衛星通信,ディジタル放送などに,広く利用されている基盤技術となっている.実用化や商用化を見据えた研究を期待される中,「信頼性関数による復号誤り確率の評価」など,情報理論の美しい体系を駆使した研究成果を生み,その後の情報理論研究者に多大な影響を与える論文を多数執筆した.1970年代,共同研究者の故・杉山康夫博士(三菱電機),笠原正雄博士,滑川敏彦博士(大阪大学)との4名連名による,IEEEを中心とした世界の情報理論分野における数々の研究成果は,研究分野全体に大きなインパクトを与えている.
1978年,関東から4人,関西から4人の当時日本を代表する情報理論研究者8人が終結し,「情報理論とその応用研究会(のちに情報理論とその応用学会)」が発足した.この発起人の一人として,日本における情報理論の研究分野立ち上げに多大な貢献をなす.
1979年カリフォルニア大学ロスアンジェルス校,計算機科学科客員研究員を機に,1981年より早稲田大学理工学部工業経営学科教授として着任.大学における研究教育活動に携わる.第1期生に青山学院大学・稲積宏誠教授(同大・前理工学部長),第2期生に法政大学 情報科学部・西島利尚教授など,同研究領域で活躍する研究・教育者多数.早稲田大学着任後も研究活動は衰えることなく,「修正積符号」や「不均一なシンボル誤りを持つ復号法」に関する研究など,数々の業績を残す.また,石渡徳彌教授を主査とする「知識情報処理に関する特別研究部会」の立ち上げに協力し,早稲田大学理工総研内の研究部会として,当時盛り上がりを見せつつあった知識情報処理や学習理論の分野の研究を開始した.この研究部会は,松嶋敏泰教授を主査として引き継がれ,現在も機械学習やデータマイニング,情報検索などを対象とした研究が進められている.
1987−88年,電子情報通信学会 情報理論研究専門委員会の委員長を務め,情報理論研究を目指す若手のための様々な発表機会の提供,若手研究者のための支援活動にも取り組む.大変穏やかな人柄で,若手の研究者とも気さくに話をすることから,非常に多くの学外研究者から人望の厚い先生として慕われている.
早稲田大学においては,1985年から5年間に渡り,白井克彦教授(現早稲田大学総長)が立ち上げた事務システム開発に携わる.1988−1990年の理工学部
教務主任を経て,1994−1996年,理工学部
工業経営学科主任.さらに,早稲田大学メディアネットワークセンター副所長を経て,2002年より2006年に渡ってメディアネットワークセンター所長を務めた.この間,情報技術とインターネット技術の発展は目覚しいものがあり,その荒波の中での適切,かつ迅速な意思決定を必要とされていた.そのような時代背景の中,「情報化推進プログラム」に基づくメディアネットワークセンターの運営に尽力し,早稲田大学全体の情報化に大きな貢献を与えた.
また,多くの卒業生を送り出し,卒業生は延べ322名(2009年3月)を数える.学生一人一人を非常に大切にし,常に学生との対話を欠かさないことから,学生の評判は高かった.お互いに切磋琢磨し,本当に信頼しあえる仲間を得た素晴らしい場所であったと多くの卒業生が思い出す研究室は,2009年3月,28年間に渡る歴史を閉じる.指導教員の熱い指導に多大な影響を受ける大学院生も多く,28期を数える平澤研究室の歴史の中,常に多くの修士課程,博士課程進学者が在籍する研究室であった.平澤茂一教授を主査とする博士学位の取得者も延べ18名.この博士学位の取得者数は,早稲田大学経営システム工学科の中でも特筆すべきものであり,現在も多くの平澤教授門下生が,大学,研究所などの様々なフィールドで活躍中である.
情報理論分野における数々の業績は,その後のハードウェア技術の飛躍的進歩によって実用化され,さらに脚光を浴びることになる.1988年,「周波数偏移復調方式」の特許に対し,(社)発明協会より発明奨励賞を受賞.この「周波数偏移復調方式」は実際にIC化され,電電公社(現NTT)に納入された技術である.1994年電子情報通信学会第10回小林記念特別賞受賞,1994年「誤り訂正符号の構成と復号法に関する研究」に対し,電子情報通信学会平成5年度業績賞受賞,1995−1996年 電気通信普及財団 第10回電気通信普及財団賞テレコムシステム技術賞と数々の受賞を受ける.1997年には,IEEEより「通信路符号化と誤り訂正符号技術の発展」に対して多大な寄与があったものとしてFellowの称号を授与.IEEEのFellowは全世界の会員約38万人のうちのわずか1.6%(2007年末現在)という極めて優れた研究者にのみに与えられる称号であり,その功績が世界で評価されていることを意味する.2001年「連接符号とユークリッド復号法」の研究成果に対して,電子情報通信学会よりフェローの称号を授与,さらに2007年 情報理論とその応用学会の名誉会員となる.特に,会員数約28,000名を擁する電子情報通信学会の中でも,フェローの称号は学術的貢献があった1%の会員にのみ与えられる栄誉である.2008年 IEEEよりさらにLife Fellowの称号を授与.日本における情報理論研究者としては最高の栄誉を受け,その功績は世界でも確固たる評価を築いた.
著書として,「計算機工学入門」,「情報理論」,「符号理論入門」,「情報理論入門」,「コンピュータ工学」など.現役研究者としての拘りを持ち続け,「若いうちは,書籍執筆よりも研究,論文に力を注ぐ」との信念のもと,アクティブな研究活動を継続してきたが,2000年前後に情報理論分野の後継研究者達へのメッセージともいえる書籍を続けて出版.細部の記号や厳密な定義まで工夫と拘りを持った書籍は,入門者のみならず,情報理論分野一線の研究者でも堪能することができる独特の世界感を繰り広げている.
2008年8月,IEEE Conference on SMCia2008 においてBest Paper Awardを受賞.現在も,研究室で博士学位を取得した学外メンバーと共同研究を継続し,研究成果をあげている.多くの弟子との共同研究のみならず,自ら筆頭著者として多方面の国際会議で講演し,論文執筆も手がける現役研究者である.
■ 研究分野
* 情報理論/符号理論
* フォールトトレラントコンピューティング
* 機械学習/データマイニング
* 情報検索システム
■ 所属学会
IEEE,電子情報通信学会,情報処理学会,情報理論とその応用学会,ACM,他
■ 略歴
1961年 早稲田大学第1理工学部数学科卒業
1963年 早稲田大学第1理工学部電気通信学科卒業
1963年 三菱電機(株)入社
1975年 工学博士(大阪大学)
1979年 カリフォルニア大学ロスアンジェルス校,計算機科学科客員研究員
1981年 早稲田大学理工学部工業経営学科
(現
創造理工学部経営システム工学科)教授
1985年 ハンガリー科学アカデミー,伊トリエステ大学客員教授
2002年 カリフォルニア大学ロスアンジェルス校,計算機科学科訪問教員
■ 学内活動
1985年2月−1987年5月 事務システム開発室 参与
1987年6月−1990年5月 事務システムセンター 参与
1988年9月−1990年9月 理工学部 教務主任(学生担当)
1994年9月−1996年9月 理工学部 工業経営学科 主任
1996年6月−2000年4月 メディアネットワークセンター 副所長
2002年11月−2006年9月 メディアネットワークセンター 所長
■ 学外活動
1977年 IEEEコンピュータ通信に関する国際会議 プログラム委員会 委員
1982−1983年 IEEE通信ソサエティ アジア太平洋委員会 委員
1987−1988年 電子情報通信学会 情報理論研究専門委員会 委員長
1988年 IEEE情報理論に関する国際シンポジウム 実行委員会 委員
1994年 情報理論とその応用学会編 「情報理論とその応用シリーズ」編集委員会 副委員長
1995年 電子情報通信学会 組織委員会 委員
1995−1996年 電子情報通信学会 基礎境界ソサエティ 副会長
1996年 情報理論とその応用学会 会長
1998年 情報理論とその応用国際シンポジウム(メキシコ)委員長
1998年 電子情報通信学会編「電子情報通信ハンドブック」符号理論編主査
2000年 Associate
Editor, Journal of Discrete Mathematical Science Cryptography, Academic
Forum
2005年 Editional
Board, International Journal of Information and Management Science, Tamkang
University Press, R.O.C.
2007年 Associate
Editor, International Journal of Digital Computer and Knowledge
Communication
■ 受賞歴
1988年 (社)発明協会,発明奨励賞受賞,「周波数偏移復調方式」
1994年 電子情報通信学会,第10回小林記念特別賞受賞
1994年 電子情報通信学会,平成5年度業績賞受賞,
「誤り訂正符号の構成と復号法に関する研究」
1995−1996年 電気通信普及財団,第10回電気通信普及財団賞
テレコムシステム技術賞
1997年 IEEE,Fellow,For
contributions to the development of channel coding
schemes and error correcting codes
2001年 電子情報通信学会,フェロー,「連接符号とユークリッド復号法」
2007年 情報理論とその応用学会,名誉会員
2008年 IEEE,
Life Fellow
2008年 Best
Paper Award, IEEE SMCia/08
■ 著書
内山
明彦, 平澤 茂一, 「計算機工学入門」, 昭晃堂, 東京, 1990年10月.
平澤
茂一, 「情報理論」, 培風館, 東京, 1996年5月.
平澤
茂一, 西島 利尚, 「符号理論入門」, 培風館, 東京, 1999年11月.
平澤
茂一, 「情報理論入門」, 培風館, 東京, 2000年9月.
平澤
茂一, 「コンピュータ工学」, 培風館, 東京, 2001年10月.
■ その他情報
技術論文,国際会議論文などは多数による掲載不可のため,下記参照のこと
http://www.hirasa.mgmt.waseda.ac.jp/lab/list.html
平澤教授の主査による博士学位取得者と博士論文は,下記参照
http://www.hirasa.mgmt.waseda.ac.jp/lab/doctor/doctor.htm
(文責: 平澤茂一教授最終講義記念懇親会 実行委員会)
以上
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